21世紀型研究(1)
脳活動を見て口腔状態を評価する、新しい時代に
患者さんの主観を脳活動計測により客観的に評価
歯科臨床において、患者さんの咬合状態(かみ合わせ)や口腔機能(口の中の機能)を評価するのは、とても重要なことです。しかしながら、これまでは口腔状態を客観的に評価する方法が無く、評価法として患者さんの自己申告による主観的評価法がメインでした。口腔状態や治療の達成度を術者の経験や患者さんの主観だけに頼るのではなく、誰もが理解できるよう客観的に評価することは出来ないかと考えました。
私達の研究室では、脳活動状態に着目することにより口腔状態を客観的に評価することについて研究しています。
髪の毛一本にも敏感に反応 センシティブな口腔内を守る
こうした研究で、新たに証明できたことがいくつもあります。その一つが、不正咬合(かみ合わせが悪い状態)と健康障害の関連性です。以前より、この2つは関連しているとされてきました。それを客観的に証明したのが、NIRS(近赤外分光計測)を使用した実験です。下顎の位置を後ろに下げた咬合不全状態で脳を計測し、前頭前野のストレス反応を明らかにしました。また別の研究では、もともとかみ合わせが悪く、ストレス状態が続いていた患者さんに矯正治療を行い、その前後の脳活動を見ました。ストレス状態を示していた脳活動が、矯正治療とともに改善される様子がわかりました。口の中というのは、髪の毛一本入っただけでも強い違和感を感じる、とてもセンシティブな場所。良い状態を保ち、守ることが歯科医師の仕事なのです。
- ヘモグロビン濃度の増減で脳活動を計測するNIRS(近赤外線分光法)。大がかりな施設環境を必要とせず、臨床診断にも応用されている。
- かみ合わせの不調を訴えていた患者さんの矯正治療前後の脳活動変化。かみ合わせが改善されたことで、ストレス状態を呈していた脳活動が健常に。
未来の矯正治療を支える21世紀型の研究
これまで、こうした研究は動物実験、つまり動物を殺して行わなければなりませんでした。それが生きているヒトで証明できるようになったこと、患者さんの申告を証明できるようになったことは、私たち歯科医師、研究者にとって大きな前進です。未来の矯正治療を支える、まさに21世紀型の研究といえるでしょう。
大塚 剛郎 PROFILE
日本矯正歯科学会認定医。日本大学歯学部卒業後、2004年から2008年まで神奈川歯科大学大学院歯学研究科(歯科矯正学)在籍。2008年4月から2014年3月まで、歯科矯正学分野にて特別研究員を経て、2014年4月から口腔科学講座歯科矯正学助教に就任。公益社団法人日本矯正歯科学会認定医。2017年4月口腔統合医療学講座に再編、同講座助教、現在に至る。