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〔プレスリリース〕新型コロナウイルスは、口腔から感染する

本学の坂口和歌子助教と槻木恵一教授らの研究グループは、口腔内の舌、味蕾、歯肉溝には、SARS-CoV-2(以下、新型コロナウイルス)の感染に必要な生体側受容体ACE2*1とセリンプロテアーゼであるTMPRSS2*2が存在することを明らかにし、口腔は新型コロナウイルスの感染の入り口になる可能性を世界に先駆けて2020年8月国際科学雑誌International Journal of Molecular Science(IJMS; IF=4.556)に公表しました。
さらに、舌苔や唾液にもTMPRSS2が含まれていることを明らかにしました。
この論文のダウンロードは、発表以来1500回以上となり世界的な関心を得ています。

1.研究の背景

COVID-19(以下、新型コロナウイルス感染症)では、味覚障害が認められることや、唾液から新型コロナウイルスの遺伝子を検出できることから、口腔と新型コロナウイルスの間に重要な関連があることが示唆されてきました。
しかし、基礎的な知見は不十分であり、新しい情報が求められていました。

2.研究の内容と意義

Ⅰ.舌の上皮組織では、ACE2とTMPRSS2が同時に発現しており、新型コロナウイルスが侵入するための条件が認められることを世界で初めて報告しました。
さらに、この上皮細胞は脱落して唾液に含まれることから、感染細胞が呼吸器官に移行する可能性を指摘しました。
最新の知見では、脱落した口腔上皮細胞には、新型コロナウイルスの感染が認められ、細胞内で複製も起こっていることが証明されました*3
以上より、口腔は新型コロナウイルスの感染の入り口であると同時に感染拡大に関与していることが考えられます。
さらに、今後、唾液によるPCR検査は、単に吐打法*4による採取より、舌の上皮細胞も含まれる舌スワブ法*4も考慮されるべきと考えられます。

Ⅱ.味蕾は、味を感じる感覚器であり舌に認められます。
この味蕾にもACE2とTMPRSS2が同時に発現しており、新型コロナウイルスが侵入するための条件が認められることを世界で初めて報告しました。
このことから、新型コロナウイルス感染症の症状である味覚消失や後遺症として認められる味覚異常は、味蕾へのウイルスの感染による影響である可能性が示されました。

Ⅲ.歯と歯肉の間には、歯肉溝(しにくこう)という溝があります。
この溝から歯周病原細菌が感染し歯周病となります。
この溝の上皮組織では、ACE2とTMPRSS2が同時に発現しており、新型コロナウイルスが侵入するための条件が認められることを世界で初めて報告しました。
歯周病になると、この溝は深くなり歯周ポケットを作ります。
このことから歯周病は、新型コロナウイルスの感染のリスク因子である可能性を指摘してきました。
最新の知見でも、歯周ポケットの上皮細胞にウイルスの感染が証明されました*5
また、歯周病は新型コロナウイルス感染症の重症化については、因果関係は不明ですが相関することが報告されています*6
歯周病の予防は、新型コロナウイルス感染症対策として重要であると考えられ、口腔ケアのさらなる普及が望まれます。

Ⅳ.舌苔には、TMPRSS2が含まれていることを世界で初めて明らかにしました。
舌苔の中には、TMPRSS2が蓄積されていることから、新型コロナウイルス感染のリスク因子と考えらます。
特に舌苔の中には、舌の上皮細胞が脱落して存在しており、新型コロナウイルスの貯蔵庫になっている可能性があります。
舌磨きは、ウイルス量減少や深部臓器への拡散を防ぐことに繋がる可能性が考えられ、新型コロナウイルス感染症患者の生活習慣に舌ケアの普及が望まれます。

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Ⅴ.唾液には、TMPRSS2が含まれていることを世界で初めて明らかにしました。
しかし、その量は、非常に高い人からほとんど認めない人まで、個体差がありました。
唾液中のTMPRSS2の意義は充分解明されていませんが、感染リスク因子となる可能性について検討が必要です。

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被験者21名の唾液をウエスタンブロット解析し、
その発現の差異を棒グラフで示す。

Ⅵ.唾液中には、TMPRSS2の活性を抑制する複数のプロテアーゼインヒビターが含まれていることを報告しました。
さらにACE2とウイルスの結合を阻害するラクトフェリン、新型コロナウイルスに対する交叉IgA抗体*7やIgGなどの感染抑制因子が含まれています。
口腔には新型コロナウイルス感染のリスク因子も認められますが、感染抑制因子も多数認められています。
唾液中の感染抑制因子が十分に口腔内にいきわたるためにも、唾液の量が十分であることが望まれます。
飛沫対策として唾液の重要性と伴に、抗感染因子としての唾液の意義もあることから、唾液ケア*8の普及が望まれます。

3.まとめ

本研究は、2020年8月にIJMSに論文として公表しました。その時点では推測であったことが、その後の研究の進展で、より確定的な内容として、口腔は新型コロナウイルスの感染部位であることが明らかになりました。
また、歯周病は、新型コロナウイルス感染のリスク因子と考えられ、口腔ケアの重要性の普及が望まれます。

論文情報

以上の論文内容は、オンライン上で閲覧可能(Existence of SARS-CoV-2 Entry Molecules in the Oral Cavity. https://www.mdpi.com/1422-0067/21/17/6000)であり、日本語の解説(新型コロナウイルスと口腔. http://www.labs.kdu.ac.jp/gakkai/)も無料でダウンロードできます。

解説

*1 ACE2:Angiotensin-converting enzyme 2(アンジオテンシン変換酵素Ⅱ)は、新型コロナウイルスの機能的受容体であることが示されています。新型コロナウイルスは受容体の結合だけでは生体内に侵入できなく、TMPRESSなどのプロテアーゼが必要です。

*2 TMPRSS2:Transmembrane protease, serine 2は、Ⅱ型膜貫通型セリンプロテアーゼの一種で, SARS-CoV-2粒子の宿主細胞への侵入を促進します。ACE2も同時に発現する細胞は、新型コロナウイルスの感染のリスクの高い細胞であることが示されています。

*3 Huang et al. SARS-CoC-2 infection of oral cavity and saliva. Nat Med. 2021 Mar 25. doi: 10.1038/s41591-021-01296-8.

*4 吐打法とスワブ法:唾液採取には、様々な方法がありますが、吐打法は、試験管に口腔内に溜まった唾液を吐き出すことで収集する方法です。スワブ法とは、綿棒などで細胞の採取を念頭においた採取法です。

*5 Matuck et al. Periodontal tissues are targets for Sars-CoV-2: a post-mortem study. J Oral Microbiol. 2020 Nov 26;13(1):1848135. doi: 10.1080/20002297.2020.1848135.

*6 Marouf et al. Association between peritonitis and severity of COVID-19 infection: A case-control study. J Clin Periodontol. 2021 doi.org/10.1111/jcpe.13435.

*7 Tsukinoki et al. Detection of cross-reactive IgA against SARS-CoV-2 spike 1 subunit in saliva. medRxiv. 2021 doi.org/10.1101/2021.03.29.21253174.

*8 唾液ケア: 唾液腺マッサージや食生活の改善により唾液量の増加や、唾液中の機能性分の増加を目指すケアのことです。

槻木恵一教授の紹介

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1967年12月東京生まれ。歯科医師。
2007年4月より神奈川歯科大学教授。専門は環境病理学。神奈川歯科大学副学長、大学院研究科長を歴任。
テレビなどで口腔ケアの重要性と唾液の働きを唾液力と命名しわかりやすい解説が好評を得ている。

神奈川歯科大学の紹介

明治43年に設立の東京女子歯科医学講習所が前身の医療系大学です。現在は横須賀市にキャンパスがあります。6年制の歯学部、4年生の大学院を設置する単科大学です。短期大学部・専門学校も併設しています。

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